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長崎地方裁判所 昭和31年(ワ)131号 判決

参加申立人 楠田作市

原告 音成浩子 外二名

被告 日本信興株式会社

主文

一、申立人の、被告として、本件訴訟に参加する旨の申立は、之を却下する。

二、被告が、本件訴訟から脱退することは、之を許さない。

理由

申立人は、

本件執行債権たる、被告の訴外長井操に対する債権(福岡法務局所属公証人衛藤道三作成の第五一五七一号公正証書による債権)を、昭和三十一年五月六日、被告から、譲受を受けて、その債権を承継し、債権者たるの地位を取得した旨を主張し、昭和三十一年八月二十日、被告として、本件訴訟に参加する旨の申立を為した。

被告は、

右申立の為された後、昭和三十一年十月三十日、本件訴訟から脱退する旨の申立を為した。

仍て按ずるに、

一、強制執行の目的物に対する第三者異議の訴に於て、被告たるの適格を有する者は、当該強制執行手続に於ける執行債権者たるの地位を有する者に限られて居る。

従つて、右の訴訟に、被告として、参加しようとする者には右の地位がなければならない。

二、而して、強制執行手続に於ては、その執行債権の譲渡を受けたと言うことだけで、当然その譲受人が、その執行債権者たるの地位を取得するに至ると言うことはない。

強制執行手続に於て、執行債権の譲受人が、執行債権者たるの地位を取得するに至るのは、その者が、自己の為めに、その譲受債権を表示する債務名義について、執行正本(執行文)を得て、その手続に参加(自己の為めに執行の続行をすること)するに至つた結果によるものである。従つて、その地位を、取得する為めにはこの手続を経なければならない。この手続を経ない以上、執行債権の譲受人は、執行債権者たるの地位を取得し得ないのである。これは、強制執行手続に内在する形式性が、要求するところのものなのである。

三、然るところ、本件参加申立人が、本件強制執行手続に於て、自己の為めに、執行正本を得て、その手続に参加し、その執行債権者たるの地位を取得したことについては、何等の証拠もない。従つて、右申立人が、右執行手続に於て、執行債権者たるの地位を有することは、之を認め得ない。故に右申立人は、本件訴訟に於ける被告たるの適格は、之を有しないものと断ぜざるを得ない。

四、そうすると、本件参加申立人の、被告として、本件訴訟に参加する旨の申立は、不適法であるから、却下されなければならないものである。

五、而して、訴訟手続に於ける脱退は、参加が、適法且有効に為された場合にのみ許されるところのものであるから、参加の申立が不適法であつて、却下を免れない場合には、参加は、為されて居ないと同様であるから、脱退の許されないことは多言を要しないところである。故に、被告の申立てた脱退は許され得ないものである。

六、以上の次第で、参加及び脱退の点については、これ以上の審理を為す必要がないと認められるから、参加申立人の申立は之を却下し、被告の申立てた脱退は、許されないものであることを宣言する為め、中間判決を以て、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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